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このコーナーでは、当社のコンサルタントが、エネルギー/原子力についてのトピカルな問題を分析し、個人的な見解も交えて一般向けに分かりやすく解説しています。

第33回 世界の原子力ルネサンスに揺動するフランス---原子炉輸出商戦の本格化に向けて国内産業の改革へ

 近年、原子力発電復興の気運が世界的に高まり、「原子力ルネサンス」という新語も定着した感がありますが、国や地域によって“ルネサンス”の意味は一様ではなく、それぞれの国内事情や各国間の関係を一望俯瞰的に把握することは極めて困難です。そこで、過去から一貫して原子力開発を継続してきた優位性から、世界的な原子力回帰を巨大な商機と捉えているフランスを軸に、以下、錯綜する世界の原子力シーンに一定の見通しをつけてみたいと思います。

 フランスでは3月に「民生原子力利用へのアクセスに関する国際会議」が開催されました。その開会演説を、ホスト国のサルコジ大統領は次の言葉で始めています。

「私たちが原子力の新たな時代、いわゆる“ルネサンス”の時代に入ったことは、今や衆目の一致するところです。(中略)実際、歴史上のルネサンスと共通する要素がいくつかあるのです。旧来の思考図式と非合理な畏れを審問に付すこと、科学と技術への信頼、それらがルネサンスを構成していたエレメントでした。」

 ここで大統領は、ルネサンス期における新旧の対立構造を想起することで、原子力に闇雲に反対する立場を旧弊と批判する一方で原子力発電の復興を称揚しているわけですが、同時に、原子力という叡智の保持者としてのフランスの卓越的な地位を強調しようとしているようにも思われます。ヨーロッパでは中世のいわゆる暗黒時代を通じてギリシア伝来の合理思考が衰退しますが、この間、古代の知的遺産を継承・保持したのはイスラム世界でした。その後、古代ギリシアの諸学問がヨーロッパに逆輸入されたのが12世紀。14世紀以降にイタリアを中心に開花した一般的な意味でのルネサンスに対して、これが「12世紀ルネサンス」と呼ばれる現象です。いまやフランスは、12世紀ルネサンスにおいてイスラムが果たした役回りを、原子力発電という限局された分野でではありますが、現代において世界レベルで再演しようとしているかのようです。

 このようなフランスの野心が最も明瞭な形で具現化しつつあるのが、イタリアとの関係でしょう。イタリアは1987年の国民投票に基づき原子力発電から撤退した国ですが、現政権は原子力復活に向けた法令整備を着々と進めています。しかし、同国で最後の原子炉が閉鎖されてから既に20年近くが経過しており、現場レベルでの技術の継承は断絶してしまっています。そこで全面的な技術支援を申し出ているのがフランスです。現在イタリアでは、フランスから欧州加圧水型原子炉(EPR)を数基輸入することが検討されており、フランス電力(EDF)は仏フラマンヴィル原子力発電所(国内初のEPRを建設中)にイタリア電力公社からの出向者を迎えています。また、2010年4月の仏伊首脳会談に際して、仏AREVA社は伊アンサルド・エネルジア社と原子炉設備機器の供給等に関する協力協定を締結し、仏放射線防護・原子力安全研究所も伊新技術・エネルギー・持続可能経済開発庁と協力協定を締結しました。

 一方、フランスが世界市場を席捲することができるかどうかの試金石となっているのが、フィンランドのケースです。フィンランドでは1980年に最後の原子炉が運開した後、新設は途絶えていましたが、オルキルオト3号機として世界で初めてフランス製のEPRが採用され、2005年に建設が開始されました。しかし、工期が大きく遅延しており、発注者であるフィンランドの電気事業者と供給者であるAREVA社の間で責任の所在をめぐる非難の応酬が続いています。EPRは既に中国でも着工され、米国、英国、インドにおける受注が確定的となっており、さらなる受注拡大と新興国への展開が見込まれますが、フィンランドでの遅延とそれに伴うコスト上昇はEPRの国際競争力を低下させる恐れがあります。したがって、今後いかに良好なイメージを潜在的顧客に与えるような形で完成に漕ぎ着けるかが、フランスにとって焦眉の課題となるでしょう。

 ところで、原子力発電の再評価が始まったのは世界金融危機の前ですが、産業界はまだ新規原子炉に多額の投資を行うだけの資力を有しているかという問題もあります。サルコジ大統領は、先述した3月の国際会議において、世界銀行や欧州復興開発銀行に原子力プロジェクトに積極的に融資させ、原子力発電をクリーン開発メカニズムにおける炭素クレジットの対象とすることを提唱しましたが、これは、景気の冷え込みに伴う投資意欲の減退に対する警戒感もあってのことでしょう。しかし、経済の停滞と連動して電力需要予測が下方修正されれば、一部の原子力開発計画はいずれにしても先送りされるでしょうし、そうなると、世界市場におけるパイの奪い合いは一層熾烈なものになるでしょう。さらに、新たな原子炉輸出国として台頭してきた韓国の存在が脅威となっています。特に2009年末にアラブ首長国連邦で初となる原子力発電所の建設をめぐる国際入札で韓国に敗北したことは、フランスでは大変な衝撃をもって受け止められました。

 このような状況下、フランスは原子炉輸出商戦の本格化を見据えて国内原子力産業の大掛かりな改革に着手しました。7月27日、大統領が招集した原子力政策審議会で、AREVA社とEDFが包括的な戦略パートナーシップを結ぶことが決定されました。アラブ首長国連邦における入札ではAREVA社とEDFの足並みが揃いませんでしたが、新たなパートナーシップによって両社が協同して海外進出する体制が整えられることとなりました。AREVA社の事業領域は原子力サプライチェーンの全域を網羅していますが、この総合力という従来からの強みに、さらに運転者でありアーキテクト・エンジニアでもあるEDFの知識と経験を加え、顧客の要望に即応した事業プランを提示することが目指されているわけです。今回の措置は、EDF元会長のルスリー氏が5月頃に大統領に提出したとされる報告書の提言に沿ったものですが、同報告書では他にも原子力産業体制にかかわる多くの提言が示されており、改革はまだ緒に就いたばかりといえます。

 原子力ルネサンスの主導者をもって任じるフランスですが、こうして見てみると、今後の世界市場展開に向けて少なからぬ不安要素も抱えています。サルコジ大統領は3月の国際会議において、地球温暖化防止や開発途上国の経済離陸を引き合いに出しながら、民生原子力技術を少数の国だけが独占すべきではないと力説しましたが、新興国の参入にともなう原子力市場の拡張は、もちろん原子炉輸出国の利益に直結しています。しかし、輸出国全体のためにせっせと猟場を開拓しておきながら、フランスが新興市場を十分に掌握できず、たんなる世話役に終始するとしたら、原子力技術のトップセールスを多くの国々で精力的に展開してきたサルコジ大統領の立場は道化に堕すことになります。フランスは原子力ルネサンスを牽引し、さらに未開の地に鋤を入れて種を蒔いた。ならば、その成果を刈り取るのも断固フランスでなければならない――大統領は、そのような不退転の決意を固めているに違いありません。

(主任研究員 大野 隆寛)
 
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